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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)329号 判決 2000年2月25日

原告

弥園里美

被告

古谷功

主文

一  被告は、原告に対し、金一一五二万五八〇七円及びこれに対する平成八年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、次の交通事故により傷害を負った原告が被告に対し、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償(一部請求)を求みた事案である。

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成八年一二月二日午後一一時〇六分ころ

(二)  場所 大阪府貝塚市久保一四九番地の一先の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)

(三)  加害車両 被告運転の普通乗用自動車(和泉五二む二〇三〇)

(四)  被害車両 原告運転の足踏式自転車

(五)  態様 原告が被害車両に乗って進行中、右折しようとした加害車両に衝突された。

2(責任)

本件事故は、被告が、本件交差点を右折するに当たり、下り坂となっており、交差道路の動静に注意することなく、減速しないで本件交差点に進入した過失により惹起されたものであり、また、被告は加害車両を本件事故の際自己のために運行の用に供していた者であるから、被告には、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づく責任がある。

3(治療経過)

(一)  東佐野病院

平成八年一二月二日通院一日

診断名・骨盤骨折、内臓損傷の疑い

(二)  大阪府立泉州救命救急センター

平成八年一二月三日から同月五日まで入院三日

診断名・骨盤骨折、左膝打撲

(三)  市立岸和田市民病院

平成八年一二月五日から平成九年一月二〇日まで入院四七日

診断名・骨盤骨折、第五腰椎脱臼骨折

平成九年一月二一日から同年一二月一六日まで通院(実通院日数二三日)

平成九年一二月一七日から同月二九日まで入院一三日抜釘手術のため

平成九年一二月三〇日から平成一〇年一月一九日まで通院(実通院日数一日)

平成一〇年一月一九日、症状固定

4(後遺障害)

自賠責保険の事前認定においては、後遺障害等級表一一級七号(脊柱の変形)、一一級一一号(産道狭窄)、一二級五号(骨盤骨の変形)の併合一〇級との認定であった。

5(争いのない損害額) 二三八万〇五七七円

(一)  治療費 二一〇万八四二一円

(二)  装具代 一八万八一五六円

(三)  通院交通費 三四〇〇円

(四)  入院雑費 八万〇六〇〇円

日額一三〇〇円、六二日分

6(損害填補) 三三六万六八七八円

(一)  治療費 二一〇万八四二一円

(二)  装具代 一八万八一五六円

(三)  その他 一〇七万〇三〇一円

二  争点

1  損害

(一) 休業損害 八四万四一四六円

原告は、本件事故当時、大阪府貝塚高等学校に在学するかたわら、平成七年六月から、有限会社三美水産(以下「三美水産」という。)の経営するふぐ料理店「ふぐ匠」において時給八〇〇円のホール係のアルバイトをしていた。

原告は、平成八年一二月以降も右アルバイトを続けるつもりで、年明け以降までのアルバイトの日程が決まっていたのであるが、本件事故による負傷のため、右アルバイトを辞めざるを得なかった。

原告は、冬休み期間中は、終日働く予定であった。

原告が、三美水産から支給された本件事故前三か月の給与は、一八万三四八〇円(日額二〇三九円)である。

休業期間(平成八年一二月二日から症状固定日である平成一〇年一月一九日までの四一四日間)の給与相当額は、八四万四一四六円となる。

(二) 付添看護費 三三万円

原告の母である弥園壽子は、原告の入院期間中付添看護をするため、一二年間続けていたパートを退職せざるを得なかった。

付添看護料は一日当たり五五〇〇円、市立病院における入院日数六〇日分の三三万円となる。

(三) 傷害慰謝料 二五〇万円

入院二か月、通院一二か月、重傷

(四) 逸失利益 一六六八万八五二五円

後遺障害等級一〇級

労働能力喪失率二七パーセント

原告は、症状固定時一八歳、六七歳までの四九年間就労可能(ライプニッツ係数一八・一六八)

平成八年賃金センサス一八歳女子労働者(学歴計)の全年齢平均賃金年三四〇万二一〇〇円

原告は、辻調理師専門学校を卒業して、株式会社だんだんの経営する寿司屋に就職して月額約一五万円の給与を得ており、今後も料理人として稼働していくことが明らかであり、生涯を通じて女子労働者の全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が高い。

340万2100円×0.27×18.168

原告は、株式会社だんだんにおいて、給与・賞与等を他の勤務者と何らの差異なく受領しているようであり、後遺障害がなければより多くの収入を得られたであろうことを示唆する事情は窺われず、現在の収入を維持するために特別の努力を払っているとまではいえず、また、後遺障害のゆえに将来原告の昇進・昇給等で不利益な取扱いを受ける虞れも認められないから、逸失利益は存しない。仮に原告に何らかの逸失利益が認められるとしても、産道狭窄については、原告の労働能力を減殺するものであるとは思えないから、これについては、逸失利益の算定に関する限り、考慮の対象から除外すべきであり、その余の後遺障害についても、原告の労働能力に与える減殺力は原告の寿司職人としての技量の上昇に伴って減少していくことを考慮すべきである。)

(五) 後遺障害慰謝料 八〇〇万円

原告は、骨盤骨の変形、産道狭窄、排卵障害という未婚の女性にとり極めて重大な後遺障害が残り、現在も基礎体温低下につき治療継続中で、将来の結婚や出産に計り知れないハンディキャップを背負っている。

(六) 弁護士費用 三〇〇万円

2  過失相殺

(一) 本件事故現場は、南北道路と東西道路の交わる交差点である。周囲には街灯等の照明はなく、夜間走行する車両にとっては自車の前照灯のみが頼りであるような状況である反面、歩行者や他の車両からは相手車の前照灯の光によって相手車の存在を容易に知りうる状況であった。

(二) 被告は、南北道路を北に行ったところにあるガソリンスタンドでの仕事を終えて帰宅する途中で、南北道路を南下して本件交差点に差し掛かった。

被告は、右折の合図をしながら交差点手前で一旦停止し、左右を確認した後、微速にて発進し、本件交差点を右折し、東西道路を西進しようとしたところ、交差点中央付近で、自車直前を斜めに横断する被害車両を認め、制動の措置を講ずるも間に合わず、加害車両前部を被害車両に接触させてこれを転倒させ、同時に転倒した原告を加害車両左輪で轢いたものである。

(三) 東西道路北側を東進してきた原告は、加害車両の前照灯の光によって加害車両の存在を認識しており、かつ、加害車両の右折の合図によってその進行方向を容易に知り得たにもかかわらず、原告は、漫然と無灯火で本件交差点を斜めに横断しようとして、先に本件交差点に進入していた加害車両の直前を、その予想進路を横切る形で進行し、もって、加害車両と衝突したものである。

(四) よって、原告には、少なくとも三割の過失が存する。

第三判断

一  争点1(損害)

1(争いのない損害額) 二三八万〇五七七円

(一)  治療費 二一〇万八四二一円

(二)  装具代 一八万八一五六円

(三)  通院交通費 三四〇〇円

(四)  入院雑費 八万〇六〇〇円

日額一三〇〇円、六二日分

2 休業損害 四八万五二八二円

証拠(甲四一、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時高校生であり、平成七年六月から三美水産の経営するふぐ料理店においてアルバイトをしており本件事故前の日給は二〇三九円であったことが認められ、これに原告の受傷の部位、程度及び入通院状況を考慮すると、本件事故後当初の二か月及びその後の入院期間一三日は一〇〇パーセント、その余の一一か月は五〇パーセント労働能力を喪失したものとして、休業損害を算定するのが相当であり、すると、次の計算式のとおり四八万五二八二円となる。

2039円×30日×2か月=12万2340円

2039円×30日×0.5×11か月=33万6435円

2039円×13日=2万6507円

3 付添看護費 三三万円

原告の受傷の部位、程度からすると、原告主張のとおりの付添看護費を認めるべきである。

4 傷害慰謝料 一七〇万円

原告の入通院状況からすると、傷害慰謝料は一七〇万円と認めるのが相当である。

5 逸失利益 五五四万〇四五八円

証拠(甲七一ないし七五、原告本人)によれば、原告(昭和五三年一〇月一一日生)は、高校卒業後、辻調理師専門学校に進みここを卒業して、平成一一年四月(原告一九歳)から株式会社だんだんの経営する寿司店に調理補助職と勤務し、月額一五万円程度の収入を得ていること、他の従業員と給与等の面で差異がないことが認められるが、原告の後遺障害の部位、程度と右原告の職業からすると、就業するについては、原告に通常以上の努力を求めなければならないものというべきである(寿司職人として立位の仕事が多いことは自明である。)から、原告に同僚との間に給与等の面で現在差異がないからといって、逸失利益を否定することは相当ではなく、六七歳までの四八年間就労可能(ライプニッツ係数一八・〇七七)であるから、平成一〇年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者の全年齢平均賃金年三一四万七九〇〇円を基礎収入とし、労働能力喪失率を一〇パーセントとして、逸失利益を算定するのが相当である。

すると、次の計算式のとおり五五九万〇四五八円となる。

314万7900円×0.10×18.077=559万0458円

6 後遺障害慰謝料 五〇〇万円

原告の後遺障害の内容、程度からすると、後遺障害慰謝料は五〇〇万円と認めるのが相当である。

7 以上合計一五四三万六三一七円

二  争点2(過失相殺)

証拠(甲五六ないし七〇、乙五、六、原告本人、被告本人、弁論の全趣旨)によれば、本件事故現場は、南北道路と東西道路の交わる交差点(以下「本件交差点」という。)(状況は別紙交通事故現場見取図記載のとおりである。)である。周囲には街灯等の照明はなく、被告は、南北道路を北から南に向かい本件交差点に至り西へ右折進行しようとしたところ、東西道路の北側寄りを被害車両に乗って西から東へ進行してきた原告と衝突したこと、被告は右折進行するにあたり東西道路の安全を十分に確認しなかったこと、原告も加害車両の前照灯の光を見て加害車両が進行してくることには気づいていたことが認められる。

右認定の事実によれば、原告にも加害車両の進行してくるのを気づいていたにもかかわらず、減速等して加害車両の動静に注意する等のことをしなかった点に過失があるというべきであるから、前記損害額から一割を過失相殺するのが相当である。

前記損害額から一割を過失相殺すると、一三八九万二六八五円となる。

三  損害填補(三三六万六八七八円)

前記一三八九万二六八五円から填補済みの三三六万六八七八円を控除すると、一〇五二万五八〇七円となる。

四  弁護士費用 一〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一〇〇万円と認めるのが相当である。

五  よって、原告の請求は一一五二万五八〇七円及びこれに対する本件事故の日である平成八年一二月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

交通事故現場見取図

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